◆「作家は処女作に向かって成熟する」。大原とき緒監督の『ナゴシノハラエ』はまさに成熟するに値する希有な作家性がつまった処女作だと思いました。荒削りだけど、目が離せない。作り手の世界観が抜け落ちたピカピカの既製品よりも、監督のサインがゴリゴリッとスクリーンに刻み込まれた『ナゴシノハラエ』のような手作り品が僕は好きです。虚実の迷路の果てに、水と空気の匂いがピンと張りつめた時間にたどり着く。映画っていいなあ。
深田晃司(映画監督『歓待』『ほとりの朔子』『さようなら』)
◆この映画は、まず、大変な映画です。明らかに《芸術映画》であって、深い感動が残ります。こういう映画が、今日女性によって、非商業的につくられ、しかも上映時間が108分というのは、驚きです。
映画は美しく、特に風景の部分は高く評価できます。108分を眠りもしないで見ましたが、普通の意味では直木賞的な映画では無くて、芥川賞的な映画です。今を生きている女性の切実さと切迫感が凄いです。分かり安く言えば、自分探しの映画ですが、厳密には違います。
愛するということと正面から向き合っていて、ほとんどそれだけで、テーマとしては社会的な広がりが問題とされながらも、実質的には女が男と向き合うと言うことの必要性が描かれていると思いました。
見て、良かったと思いました。冒頭に福島の原発事故を描いた短編『早乙女』が上映されましたが、これも非常に悲しく良い映画でした。凡庸なドラマですが、それが心に残ります。
彦坂尚嘉(現代美術家)
*「翠と彗」Yuka Negishi*
◆妹の、兄への気持ちが色つきで伝わってくるような映画だった
◆純粋な愛の物語に感動しました。
最後、川を歩くシーンがとても印象的でした。
海にたどり着いた所は、涙がでました。
◆シュンとジュン、スイとスイ、マコトとマコト。二対になった暗示。人形は人の身代わりとなって川を流れていく。散りばめられたカケラがみごとに迷宮を作り出して、まるで2枚のすかし絵が重なって新しい真のビジョンを作り出すよう。
らせんのとぐろがくり返す表と裏、明と暗…
◆手作り作品の面白さがたっぷり。自由に自己主張する表現の新鮮さ。ナゴシノハラエの形代が川面から沈んでいく表現は暗示的。鮮度抜群。近親相姦という深刻な問題を日常の何時でも何処でもあるような環境設定の中で撮影。何の前触れも無く難しい説明もない、あるがままに素直に映像の世界の流れにどっぷりとつかって鑑賞するのが面白い。情念の世界は感情が支配している。いくら理性的な判断力でいくら反省しても麻薬の様に囚われた情念がわいてきて同じ行為を繰り返すのが人間。神代の世界では近親相姦はよくある話。今は同性婚も認められる時代。もしかしたら近親相姦が認められる時代もくるかも?
◆重いテーマを扱いながら、最後には広けた海へ流れ出る解放感が鑑賞後の心を軽くしてくれた。男性との関係にどのような形であれ悩んだ女性には必ず響くものがあると思われる。
私自身、見ながら何度も過去に関わった恋愛、男性をそして、今愛する人のことを思い出し、考えた。
もう一度、愛する人と一緒に見たい。
◆作品解説にも記されている「穢れや罪~そういうものとしてあり続けてもいいのではないか」、これは私が関わっているインドのカースト差別問題とも繋がっている。罪を犯さず(犯している自覚もなく)生きていけるのは差別者の特権であり、その彼らがいう「罪」を犯さざるをえず生きていかねばならぬ者達を「穢れ」として排除する。ブッダは或る波羅門との問答でこのように仰られた。「聖河の沐浴で罪が清められるなら魚が一番神に近い存在ことになりますよ?それより、川から学ぶべきは、どんな流れも海に入れば一つになる、ということでしょう」。この映画『ナゴシノハラエ』は、川から海への物語でもあった。
◆韓国ドラマ顔負けのドロドロした愛憎劇。2人の女が同じ男を愛している不遇をいっしょにワーワー泣くシーンがすごく新しくて、これは男は書かないシーンだと思った。短編(『早乙女』と合わせて見たから、女性が考える生殖を妨げるタブーということをめぐる2本だったのかと考えた。
◆翠のいる、見ている世界はラベンダーブルーの靄がかっているようなきれいな色だなと思いました。
ずっと梅雨の中みたいな。
雨の音とか空気感とかを感じました。
絢子さんは夏は夏でも湿度の少ないからっとした感じを受けました。
でも紗のかかったようなパステルカラーなんですね。
真や瑞穂や彗はパキッとした色で、生命力に満ちているのに。翠の家族は靄の中にいるみたい。
この母娘が川の向こうとこちらで向かい合っているのがとても印象的でした。
此岸と彼岸みたいな。
っていうと橋で転んでしまった翠は向こう側に行かずに済んだ?行けなかった?
翠は渡りたかったのかな?などとぐるぐるします。
大原監督の映画はしばらくするとまた観たくなるの。
映画の中ですべてを説明しているのではなくて、こちらに考える余韻をくれるので、観てすぐの感想と、少したってからの感想が変化するのかも。
そういう処が好きです。
監督・脚本・撮影・編集・製作:大原とき緒
Co-プロデューサー:土山壮也 衣裳アドバイザー:丸山恵美
ミキサー:大谷勝巳(有限会社プロフェッショナルクラフト)
テクニカルアドバイザー・機材協力:中村元洋
ロケ場所協力:神楽坂die-pratze 作品引用:『瓶詰の地獄』 夢野久作 著
音楽:ezoshika label『ジュ・トゥ・ヴ(あなたが欲しい)』 エリック・サティ 宣伝応援:チーム☆ナゴシ 英語字幕製作:KAZ YOKOYAMA & ROSH PERERA 予告編制作:花田まり子 フライヤーデザイン:飯田佐和子
website:Song River Production 制作:movies label will☆
2014/日本/108min/カラー
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